ラーメンは,やっぱり塩よね…

IMG_1147.jpg暖冬とは言っても,やはり冬は寒い。こんな夜はラーメンが旨い…



男「ここだよ。七年ぶりか…なつかしいナ。まだ店があったのか」

季節は夏。ひなびた港町の駅前にある古い食堂。

男「さ,君。そこに座って。ここ,塩ラーメンが旨いんだ。ラーメンは塩じゃなくちゃ。君,何にする?」
女「じゃ私も塩ラーメン」

テーブルに着いた男の足元には旅行カバン。連れの女は,となり町のキャバレーの女だった。
二人は金色に煌めくビアグラスを傾けながら,暫しラーメンを待っていた。
タンタンタン… 夕暮れどき港に帰る舟のディーゼル音が響いている。

店「おまちどうさま」

さっそく男は香り立つカツオ節,サバ節,煮干し,利尻昆布,鶏ガラ,野菜を合わせたスープをすすり始めた。

男「うん。あの時の味のまんまだ。(そうだあの頃…)」

一瞬,男の目の前に七年前の光景がよみがえる。

◇      ◇      ◇


男「あー…うまかったナ」
娘「ええおいしかったワ。スープまで飲んじゃった」

笑顔の二人。二人はスープまで飲み干した。

◇      ◇      ◇


女「ねぇ私…あんたのいい娘(ひと)の役やらされてんでしょ。昨夜からつき合ってて,そうじゃないかと… 白状しなさいよ」

男は,無言でラーメンをすすっていたが,発心したかのように箸を止めた。

男「白状しよう。名前を月と書いてルナという娘(ひと)だ。久し振りに会いにこの町に寄った。しかし家の人たちは行き先を教えてくれないんだ。僕をさけてんだナ」
女「会ったらどうするつもり?ねッ,連れて行くんでしょ?」
男「いやべつに」
女「そう…」
男「そう…」

女も七年前の…ある夜のことを思い出していた。

◇      ◇      ◇


店が跳ねてから,新人の娘を連れ添い屋台の暖簾をくぐった…

女「月と書いてルナ…本名が源氏名みたいだネ」
店「おまちどう」
娘「姐(ねえ)さんお先に頂きます。姐(ねえ)さんラーメンは塩ラーメンですよ」

◇      ◇      ◇


女「きっと塩ラーメンが好きな娘(こ)ネ」
男「………」

二人が食堂から出るとすっかり日は落ちていた。

男「おかしいナ」
女「何が?ねぇもうそろそろ列車の時間よ」
男「そうだ。丁度今の季節,今頃の時間に別れたのだけど…何故か最後のルナの顔を明るくはっきりと覚えてるんだ。まるで昼間みたいに…なぜだろう?」

ヒュー…  ドーン!
突然,大きな花火が上がった。

ふり返ると連れの女はルナになり,一瞬後には再び記憶の暗闇に沈んでいった…

◇      ◇      ◇


彼女は,この物語を読んでからというもの…
「ラーメンは,ケモノ臭くなくっちゃ」が,決まり文句だったのに「ラーメンは,やっぱり塩よね」と,少し大人っぽくなった。
初めて入ったラーメン屋で,何にするか迷ったときは,メニューが縦書きなら右上。横書きなら左上の品を注文するのが最良の選択。
しかし私の場合,何故か彼女の言葉を思い出す。

今夜は,風が冷たく寒かった。
出張先の私は,思わず通りすがりのラーメン屋に逃げ込んだ。
そして… いつものように,いつもの注文を告げた…